SNSで、こんな問いかけを見かけた。
(上底+下底)×高さ÷2
丸暗記している人も多い。
なぜこの式になるか説明できる?
なるほど、よくある問いだ。
回答欄には、
「対角線を一本引いて三角形を二つ作る」とか、
「それぞれの三角形の面積を求めて足し合わせると、
(上底+下底)×高さ÷2になる」
という説明が並んでいた。
そして出題者も、それらを正解として扱っていた。
もちろん間違ってはいない。
しかし私は少し引っかかった。
いや、その三角形の面積はどこから来たのだろう。
三角形の面積が「底辺×高さ÷2」であることを既知としてよいなら、その説明は成立する。
だが、なぜ台形の面積がそうなるのかを説明しているつもりで、三角形の面積公式を前提として使ってしまってよいのだろうか。
私ならむしろこう考える。
同じ台形をもう一つ用意してひっくり返し、ぴったり合わせる。
すると平行四辺形になる。
平行四辺形の底辺は「上底+下底」、高さはそのまま。
だから平行四辺形の面積は
(上底+下底)×高さ
元の台形はその半分だから
(上底+下底)×高さ÷2
である。
こちらの方が前提が少ないように思えた。
少なくとも三角形の面積公式を使わずに済む。
そんなことをコメントした。
すると出題者から、
「どこまで既知とするかは迷いどころですね。平行四辺形の面積も、なぜそうなるの?と言われたら、長方形に変形する説明も必要になりますね」
という返事をいただいた。
なるほど、と思った。
どうやら私が感じた違和感は、出題者もちゃんと意識していたらしい。
実際、台形の面積を説明するために三角形を使うなら、三角形の面積は既知。
三角形の面積を説明するために平行四辺形を使うなら、平行四辺形の面積は既知。
平行四辺形の面積を説明するために長方形を使うなら、長方形の面積は既知。
数学では、どこかで「ここまでは認める」という地点を決めなければ話が始まらない。
結局、どこまで既知とするかの話になる。
そこで私は、
「そうですね。結局は『どこまで既知とするか』の話になりますね。
さらに『縦a、横bの長方形の面積はab』と公理的に置くのか、面積=基準面積(単位正方形を考えています)×縦方向倍率×横方向倍率と扱うのかという話にもつながりそうです。
このあたりの話になると恐ろしいので深入りしません(笑)」
と返した。
なぜなら、ここから先はさらに面白く、そして厄介だからだ。
例えば、
$$5cm×2cm=10cm²$$
という式一つとっても、
長方形の面積を定義として置いているのか、
単位正方形を敷き詰めた結果として得られる性質と考えるのかで、見え方は変わる。
前者なら出発点であり、
後者なら到着点である。
同じ式なのに、立っている場所が違う。
そして、その先には
「そもそも面積とは何か」
という問いまで待っている。
台形の面積を考えていたはずなのに、いつの間にか足元そのものを確かめる話になってしまう。
すると出題者から、
「わかります。深入り禁物です😆」
と返ってきた。
思わず笑ってしまった。
最初から、どちらが正しい説明かを争っていたわけではないが、
どうやら見ている景色は同じだったらしい。
どこまで掘ると地面が抜けるかを、お互いに眺めていただけだったのだ。
そこでやりとりは終わった。
誰かが誰かを論破したわけでもない。
正解を決めたわけでもない。
ただ、台形の面積という一見素朴な話から、三角形、平行四辺形、長方形、単位正方形、そして面積そのものへと、少しだけ思考を掘り下げることができた。
これも数学の面白さのひとつだろう。
台形の面積の話をしていたはずなのに、気がつけば面積そのものの話になっていた。
公式を覚えることも大切だ。
だが、ときどきその公式がどこから来たのかを考えてみると、思いがけない景色が見える。
本当に面白いのは、その公式はどこから来たのか。
さらに、その前提はどこから来たのか。
そう考え始めることだ。
当たり前だと思っていた地面の下に、もう一枚別の地面が現れる。
そして、その下にもまた別の地面がある。
もっとも、その先へ進み続けると本当に帰って来られなくなりそうなので、今回は入口を眺めるだけにしておいた。


