霧を行く

数学の問題を見たとき、
「何から手をつければいいのか分からない」
そう感じた経験はないだろうか。

先日、塾で一つの問題に取り組んだ。
その問題は、こんなものだった。

自然数 \(n\) に対して、

$$
m\le \log_2 n<m+1
$$

を満たす整数 \(m\) を \(a_n\) で表す。

このとき、

$$
a_{2020}=ア
$$

である。

また、自然数 \(k\) に対して、

$$
a_n=k
$$

を満たす \(n\) は、全部で イ 個あり、そのような \(n\) のうち最大のものは

$$
n=ウ
$$

である。

さらに、

$$
\sum_{n=1}^{2020}a_n=エ
$$

である。

ア、イ、ウ、エを求めよ。

問題を読み終えた生徒は、しばらく黙っていた。

「どこから手をつければいいのか……。よく分かりません」

その気持ちは分からなくもない。

自然数 \(n\)。
整数 \(m\)。
自然数 \(k\)。
対数の不等式。
そして数列の和。

一つ一つなら見覚えのあるものでも、同時に並ぶと、急に何を使えばいいのか分からなくなることがある。

私は言った。
「まず、分かることを整理してみよう。条件も含めて、分かることを書き出す」

「\(n\) は自然数」
「\(m\) は整数」
「\(k\) も自然数」

「そんなメモでもいい。それから、できることを試してみよう」

彼は少し困った顔をした。

「そのつもりではいるんですけど……。何を試したらいいのかが分からなくて」

私は言った。

「では、一番簡単なところからやってみよう。\(n=1\)なら?」

「\(n=1\)ですか?」

「うん。まず様子を見る」

彼は問題文の \(n\) に \(1\) を代入した。

$$
m\le \log_2 1<m+1
$$

ここで、

$$
\log_2 1=0
$$

であることに気づく。

つまり、

$$
m\le0<m+1
$$

彼は少し考えた。

「\(m\) は整数だから……」

「\(m=0\)ですね」

「そう」

彼はノートに書いた。

\(n=1\) のとき \(m=0\)

そして続けて、\(n=2\) を調べ始めた。

私はその様子を見ながら、少しだけ声をかけた。

「その前に、一つだけ振り返ってみようか」
「最初、この問題を見たとき、\(n=1\)を試してみようとは思った?」

彼は少し考えた。

「……思いませんでした」

「そうだよね」

「責めているわけではないんだ」
「でも覚えておいてほしいことがある」
「文字ばかりで何をすればいいか分からない問題に出会ったとき、具体的な数を入れて様子を見るというのは、試す価値のある方法なんだ」
「もちろん、具体例を試したからといって、必ず答えにたどり着くとは限らない」
「でも、何も分からない状態から、一つ情報を増やすことはできる」
「その一つが、次の手がかりになることがある」

彼はうなずいた。

「分からないから止まるんじゃなくて、分からないからこそ、できることを探して動く……ということですか」

「そういうこと」

その後、彼は \(n=2\)、\(n=3\) と調べていった。

うまくいったことを繰り返す。
それも大切な作戦だ。
一つ得られた情報を、別の場所でも試してみる。
そうすると、少しずつ問題の姿が見えてくる。

やがて、彼のノートにはこんな表ができていた。

n 1 2 3 4 5 6 7 8
m 0 1 1 2 2 2 2 3

彼は表を眺めた。

「同じ数字が続いていますね」

「そうだね」

さらに考える。

「0は1回」
「1は2回」
「2は4回」

少し間を置いて、

「3は……8回続きそうです」

「どうして?」

「1、2、4と続いているからです」

「では、確かめてみよう」

彼は \(n=9\) 以降を調べ始めた。

9、10、11……。

15まで、ずっと \(m=3\) だった。

16になったところで、初めて \(m=4\) になる。

「本当だ」

彼は少し嬉しそうに言った。

「3は8回ありました」

ノートの余白に、彼は整理した。

$$
0\rightarrow1回,\quad
1\rightarrow2回,\quad
2\rightarrow4回,\quad
3\rightarrow8回
$$

「どうも、2の累乗個ずつ続いているみたいです」

私は彼のノートを見た。
そして、聞いてみた。

「こういう並び方をするものを、前に扱った経験はないかな」

$$
0,\ 1,\ 1,\ 2,\ 2,\ 2,\ 2,\ 3,\ 3,\ 3,\ \cdots
$$

彼は黙った。
ノートの上に並んだ数字を見ていた。

しばらくして、

「あ……」

と声を出した。

「群数列ですか?」

「そう」

私はうなずいた。

「そこまで来れば、大きな一歩だ」

分からない問題に出会ったとき、最初から解き方が見えるとは限らない。
そんなときに必要なのは、特別なひらめきではない。

まず、手を動かすこと。
分かることを書き出す。
具体的な数を入れてみる。
小さな情報を集める。

そうして初めて、問題の景色が見えてくる。

今回の問題では、その景色の中に「群数列」が現れた。
最初の一歩は、とても小さい。
しかし、その一歩を踏み出さなければ、次の景色を見ることはできない。

数学では、分からない問題ほど、まず動いてみることが大切なのだ。

お問い合わせページへ

“霧を行く” への2件の返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Top
error: 記事の保護中です