等差数列×等比数列の和

今回のコラムでは

$$
\sum_{i=1}^{10}(i-1)2^{i-1}
$$

を考えてみたい。

第4話「足跡の記憶」では計算結果だけを使ったが、
「この和は、どうやって求めるのですか」
と思われた方もあるだろう。

確かに、少し見慣れない和である。
等差数列の和でもない。
等比数列の和でもない。

では、このような和にも公式があるのだろうか。
調べれば、公式は見つかるかもしれない。

しかし私は、まず公式を探すよりも、どう工夫すれば計算できるだろうと考えてみることを勧めたい。

公式は便利である。
私も使う。
ただ、公式だけを覚えていると、見慣れない式に出会ったとき、手が止まってしまうことがある。

一方、計算の工夫を身につけている人は、「前にも似たようなことをしたな」と思い出すことができる。
その違いは大きい。


さて、求めたい和は

$$
\sum_{i=1}^{10}(i-1)2^{i-1}
$$

である。

私は、このまま眺め続けることはしない。
一度、展開してみる。
私はそういう習慣にしている、というだけのことであるが、個人的な習慣である以上、他の人に響くやり方なのかは分からない。

だが、もし。
$$
\sum_{i=1}^{10}(i-1)2^{i-1}
$$
を前にして、立ち止まってしまう人にこそ、思い出してもらいたい方法ではある。

失礼な表現になることを恐れずに言えば、
「できそうなことを試してください」
「これ、iに1から順に自然数を代入して、発生する項を足していくだけですよ」
ということになる。

すると、この場合

S(10)=0・2^0+1・2^1+2・2^2+3・2^3+・・・+9・2^9

となる。

もちろん、

S(10)=0+2+8+24+・・・+4608

と書いてもよいが、私はあまり勧めない。
iの順を送りながら、変わるものと変わらないものが分かりづらいから、である。

だから、多少長くなっても、

0・2^0

1・2^1

2・2^2

という形を残しておく。
どのみち、そのまま計算する気はないのだ。
工夫を発見しやすくしておこう、というひと手間だ。

あ、そういえば補足を忘れていた。
ここでは、
$$
\sum_{i=1}^{10}(i-1)2^{i-1} = S(10)
$$
としている。
理由は大したことではなく、Σ記号で書き示すことが面倒に思えるからだ。
もっとシンプルに \(S\) とおく人もあるだろうし、演算の構造が残るからと、Σ記号のまま進めることを佳しとする人もあるだろう。


とはいえ、「展開しただけで何か分かるのですか」と思う人もいるだろう。

正直に言えば、まだ答えは見えない。しかし、式の姿は見えるようになる。
私は、困ったときには、この「姿を見えるようにする」という作業をよく行う。

第1話「霧を行く」では、文字ばかりの問題に具体的な数を代入した。
第2話「霧は晴れたか?」では、観察した規則を問題文に戻って確かめた。

今回も同じである。

Σのままでは考えにくいから、一度展開してみる。
答えが出る保証はない。
それでも、次の一歩が見えることは多い。


さて、この式を見ていると、一つ思い出すことがある。
等比数列の和を求めるときである。
あのときは、公比を掛けた式を作り、それを利用して計算した。

今回も、等比数列の部分は残っている。
ならば、同じことを試してみよう。

公比は2だから、

$$
2S(10)=0・2^1+1・2^2+2・2^3+・・・+9・2^{10}
$$

となる。

一方、

$$
S(10)=0・2^0+1・2^1+2・2^2+・・・+9・2^9
$$

である。

この2式を引くと、

$$
S(10)=9・2^{10}-(2^1+2^2+\cdots+2^9)
$$

となる。

ここまで来れば、

$$
2^1+2^2+\cdots+2^9
$$

は、見慣れた等比数列の和である。

あとは、いつもの方法で計算すればよい。


どこかには存在したかもしれない「等差数列×等比数列の和の公式」だが、それを覚えておく必要はない。
等比数列の和を求めるとき、自分が何をしていたかを思い出したことを手がかりとしただけだ。

数学では、初めて見る問題はたくさんある。
しかし、そのたびに新しい解法を覚える必要はない。

まずは、見たことのある考え方が使えないか探してみる。
使えそうなら試してみる。
うまくいかなければ、また別の方法を試せばよい。
その繰り返しの中で、少しずつ「動き方」が身についていく。

知識はもちろん必要である。
公式も身につけた方が便利であることは確かだ。

けれど、本当に困ったときに助けてくれるのは、「どの公式だったかな」という記憶ではなく、
「まず何を試してみようか」
という行動である。

私は、その動き方こそ、身につけてほしいと思っている。

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