前回、彼は一つの規則を見つけた。
霧は、少し薄くなったように見えた。
だが、霧の中では、見えたと思ったものほど、もう一度確かめたほうがいい。
だから、もう一度地図を見る。
数学も、それは同じだった。
彼のノートには、こんなメモが残っている。
| 数字 | 0 | 1 | 2 | 3 |
| 続く個数 | 1 | 2 | 4 | 8 |
「どうも、2の累乗個ずつ続いているみたいです」
彼はそう言った。
確かに、そのように見える。
しかし、私は一つだけ確認したかった。
「今のは、何をした結果かな」
彼は少し考えた。
「数えてみました」
「そうだね」
「つまり、観察したんだ」
彼はうなずいた。
「では、質問を変えよう」
「本当に、この先もずっとそうなると言い切れるかな」
彼は少し困った顔になった。
「……そこまでは分かりません」
「そう。今分かっているのは、『そう見える』ということだけなんだ」
私はノートの片隅に書いた。
$$
0\rightarrow1回,\quad
1\rightarrow2回,\quad
2\rightarrow4回,\quad
3\rightarrow8回
$$
「ここまでは事実」
「でも、その次は16回、そのまた次は32回と続くかどうかは、まだ証明されていない」
彼は問題文を見返した。
$$
m\le\log_2n<m+1
$$
「先生、これを使うんですか」
「そう、せっかく問題文に書いてあるんだからね。条件はヒントだと思おう。その方が気分が良い」
そう笑いながら、私は続けた。
「この不等式、対数が少し邪魔に見えるね」
「だったら、対数を外してみよう」
彼は指数の形へ書き換え始めた。
$$
2^m\le n<2^{m+1}
$$
「おお……」
思わず声が漏れた。
「だいぶ見やすくなりました」
「そうだね」
「では、この不等式は何を言っている」
彼は式を眺めた。
「\(n\) は……」
「\(2^m\)以上で」
「\(2^{m+1}\)より小さい整数です」
彼は、先にまとめた別の表も見比べていた。
別々のものだと思っていた数と式が、少しずつ重なり始めているようだった。
| n | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| m | 0 | 1 | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 | 3 |
「つまり」
彼はノートに書き始めた。
$$
2^m,\;
2^m+1,\;
2^m+2,\;
\dots,\;
2^{m+1}-1
$$
「この全部が、同じ \(m\) になる」
「そういうことですか」
「では、その数は何個ある ? 」
彼は考えた。
まだ少し戸惑いもあるようだ。
「3以上6未満の整数は何個ある?」
「3、4、5ですから、3つです」
「2以上7未満なら?」
「2、3、4、5、6だから5つ」
「それを数え上げでなく、演算で求めるならどうする?」
しばらくして、彼は気づいた。
最後の数から最初の数を引いて、1を足す。
$$
(2^{m+1}-1)-2^m+1
$$
整理すると、
$$
2^{m+1}-2^m=2^m(2-1)
$$
したがって、
$$
2^m
$$
「本当だ」
彼は思わず笑った。
「ちゃんと \(2^m\) 個になります」
「そう。さっき数えて見つけた規則は、偶然じゃなかった。最初から、この不等式の中に隠れていたんだ」
彼はもう一度、問題文を眺めた。
さっきまで難しく見えていた対数の不等式が、少し違って見えたようだった。
「先生、じゃあ……」
「\(a_n=k\) というのは」
「\(m=k\) ということですよね」
「そう」
「だから」
$$
2^k\le n<2^{k+1}
$$
「これが、そのまま成り立つ」
彼は少し黙っていた。
それから、「あっ」と顔を上げた。
「イもウも、もう分かります」
「イは、この範囲にある整数の個数だから」
$$
2^k
$$
「そして、ウはその中で一番大きい整数だから」
$$
2^{k+1}-1
$$
「そう」
私はうなずいた。
「さっきは数字を眺めた」
「今度は式を眺めた」
「違う道を歩いたのに、同じ場所へ着いたね」
数学では、具体例を調べることがよくある。
規則を見つけるためだ。
しかし、見つけた規則は、まだ予想にすぎない。
だから、もう一度、問題文へ戻る。
式を見直す。
条件を見直す。
そして、「なぜそうなるのか」を確かめる。
そのとき初めて、予想は根拠になる。
霧の中で見えたものは、確かに道だった。
だが、その道を歩き続ける前に、もう一度地図を広げた。
景色と地図は、同じ場所を指していた。
数学では、そのひと手間が、確かな一歩を支えてくれるのである。
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