梅雨の晴れ間の火曜日。
ある塾生が、慎重な様子で問題と向き合っていた。
彼女の前には、次のような問題があった。
ア.必要条件であるが、十分条件でない
イ.十分条件であるが、必要条件でない
ウ.必要十分条件である
エ.必要条件でも十分条件でもない
から選び、記号で答えよ。
私は黙って彼女の様子を見守っていた。
おもむろにペンが動き始めた。
梅雨の晴れ間の火曜日。
ある塾生が、慎重な様子で問題と向き合っていた。
彼女の前には、次のような問題があった。
私は黙って彼女の様子を見守っていた。
おもむろにペンが動き始めた。
机に向かい、ある一問を解き始めた。
四次方程式ではある。
しかし、現れているのは偶数次だけだ。
ならば、
$$
A=x^2
$$
とおいてみる。
“二枚目の放物線” の続きを読む
白い紙の上に
$$∣a−b∣=∣b−a∣$$
と書く。
教室は静かだ。
「これ、どう思う?」
そう聞くと、多くの生徒は、
「たぶん、そうです。」
と答える。
理由は説明できない。
けれど、違うとも思えない。
その曖昧な頷きを、私は嫌いではない。
一方で数学は、その「たぶん」を、そのままにはしない。
私は生徒のノートに
$$
|a|
$$
と書いた。
彼女はすでに、| |が絶対値の記号であることは知っている。
その中身が具体的な数ならば何度も扱っている。
\(
|5|=5
\)であり、\(
|-5|=5
\)であることも知っている。
彼女にとって絶対値は、すでに片づいた話だった。
私は続けて
$$
|a|=
$$
とだけ書き足した。
“二つの誤答 — 理解が生まれる少し前” の続きを読む昨日からの雨は、夜になっても止む気配を見せなかった。
東京から届いた文字を私は出石の静かな部屋で眺めている。
画面の向こうで彼女は、東京も昨日今日と結構な雨が降った、と告げていた。
急な冷え込みで体調を崩す人が増えるかもしれない、というささやかな懸念とともに。
雨は私も嫌じゃないよ、と彼女は書いていた。
風が伴わなければね、とも。
なにしろ絶対値という名前である ―。
絶対値という言葉を扱うたび、少し不思議な気分になる。
最大値なら分かる。
いちばん大きい値だ。
最小値もそうだろう。
極限値は少し難しいが、それでも「限りなく近づく先」という気配はある。
だが、絶対値はどうだろう。
何が絶対なのか。
名前だけでは、なかなか見えてこない。
SNSで、こんな問いかけを見かけた。
丸暗記している人も多い。
なぜこの式になるか説明できる?
なるほど、よくある問いだ。
回答欄には、
「対角線を一本引いて三角形を二つ作る」とか、
「それぞれの三角形の面積を求めて足し合わせると、
(上底+下底)×高さ÷2になる」
という説明が並んでいた。
そして出題者も、それらを正解として扱っていた。
もちろん間違ってはいない。
今日は、言葉について書こうと思う。
数学の話ではある。
だが、本当に書きたいのは数学ではないのかもしれない。
数学という営みは、曖昧さを一つずつ削り落としていく仕事である。
だからこそ、その入口に置かれる言葉が、意外なほど大きな意味を持つ。
そのことを、私はある日の教室で思った。
深夜、私は机の前で、インターネットの海から拾い上げたひとつの数式を眺めていた。
それは、ある数学の問題だった。
\(x>0,\ y>0\) のとき、
$$
\frac{x^2+xy}{x^2+y^2}
$$
の最大値を求めよ。
一見して、少しばかり厄介なものに思えた。
変数が二つあるのだ。\(x\) と \(y\)。
それらは互いに独立して、好き勝手に動き回るように見える。分子も分母も、その動きに合わせて大きくなったり小さくなったりする。
何から手をつければよいのだろう。
しばらくの間、私はただ式を静かに眺めていた。
方程式は二つしかない。
連立方程式になっている。
①式はこれ
\[
x^2+y^2+z^2=36
\]
②式はこれ
\[
2x+y+2z=18
\]
未知数は、\(x,y,z\) の三つであり、いずれも実数だという。
この時点で、少し嫌な感じがする。
「未知数が三つなら、方程式も三つ必要だ」
と知っている中高生ほど、ここで身構える。
一方で、まだそれを知らない生徒は、ただ手を動かす。
どこへたどり着くのだろうか。
どこかで、「思考」を問われる場面があるはずだ。
その瞬間を探してみよう。